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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)3976号 判決

原告

海津武男

ほか二名

被告

五菱産業株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告海津武男に対し金一六〇万円、原告海津恵美子、同海津由利子に対しそれぞれ金一〇〇万円および右各金員に対する昭和四二年八月一二日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの、その余を被告らの各連帯負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは各自原告海津武男に対し金一九一万六、三三八円、原告海津恵美子、同海津由利子に対し各金一〇九万九、六〇五円および右各金員に対する昭和四二年八月一二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

訴外海津藤枝(以下藤枝と略称)は、次の交通事故によつて死亡した。

(一)  発生時 昭和四二年一月一三日午前九時一五分頃

(二)  発生地 神奈川県横浜市鶴見区末広町一丁目一番地被告旭硝子株式会社(以下旭硝子と略称)鶴見工場内修理工場丁字路附近

(三)  被告車 特殊自動車フオークリフト車(FD三三、車両番号六四―一八五〇F号)

運転者 訴外高野利夫

(四)  被害者 訴外藤枝(清掃中)

(五)  態様 接触事故

(六)  被害者 訴外藤枝は即死した。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)  被告五菱産業株式会社(以下、五菱産業と略称)は、被告車を所有して業務に使用し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告旭硝子は、形式的には被告五菱産業とは別個の企業主体であるが、次の諸事情から、実質的には被告五菱産業を自己の企業の一部に包摂吸収して事実上鶴見工場における硝子製造工程の一部門たる板硝子の包装および入庫運搬業務を担当させていたものであり、被告車を自己のために運行の用に供していたものというべきであるから、自賠法三条による責任。

すなわち、

(1) 被告五菱産業は被告旭硝子の研究所(鶴見工場の管理下にある)の一階を賃借し、ここに本社を設置して営業していること。

(2) 被告五菱産業の設立は昭和四一年五月であるが、その前身は以前から被告旭硝子の下請として、鶴見工場の硝子の入庫運搬等に従事していた訴外株式会社小宮製材所外二社の現業員が合体して設立されたものであつて、被告旭硝子とは別懇の間柄であつたこと。

(3) 被告五菱産業は、被告旭硝子の鶴見工場において、同工場の製品たる板硝子の包装および入庫運搬作業を専業とするもので、元来会社設立の目的もそこにあつた。

(4) 被告五菱産業は、被告旭硝子の鶴見工場以外のものの作業を取り扱つたことはなく、又同工場からの右作業の申入を断つたことも未だ絶無であること。

(5) 被告五菱産業所有のフオークリフト車は、被告車をも含めて、退社時には全部右工場の各現場に保管されており、出動時には従業員は直接同工場の各現場に赴いて被告旭硝子の従業員と共に作業に従事していること。

(6) 鶴見工場内における被告五菱産業の前記作業の緩急の順序等は全て同工場の部課長若しくは現場責任者の指示によつてなされていること。

(三)  被告旭硝子は訴外高野を被告五菱産業の代表取締役沖山幸男を介して指揮監督して使用し、訴外高野が被告旭硝子の業務を執行中、次のような過失によつて本件事故を発生させたものであるから、民法七一五条一項による責任。

訴外高野は、エンジンをかけたまま一旦停車し、用便後急いで運転台に飛び乗つて発進したものであるが、右停車付近は構内通路であり、又フロート工場寄りには排水溝などがあり、作業時間中清掃係員が右通路や排水溝等の掃除に従事しているのは通常であるし、被告車は前部に型板硝子を積載していたため、前方の見透しは悪く、運転台より前方約六、七米は死角にあたる状態であつたので、運転者としては、発進に当つては前後左右の確認は勿論、特に死角圏内については特段の注意を払い、清掃員等の有無を確かめ、その存在を確認した場合には警音器を鳴らす等して安全な場所に誘導すべき業務上の注意義務があるにも拘らずこれらの義務を怠つた過失がある。

三、(損害)

(一)  葬儀費

原告武男は訴外藤枝の事故死に伴い、葬祭関係費として金二四万六、七三三円の現金支出をした外に、訴外有限会社椎橋商店に対し金一八万二、五五〇円の債務を負担し、合計四二万九、二八三円の損害を蒙つたところ、被告五菱産業より香典として金三万円を受領し、外に同被告は右訴外会社に金一八万二、五五〇円の支払をした。したがつて残損害は二一万六、七三三円である。

(二)  被害者に生じた損害

(1) 訴外藤枝が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり一一九万八、八一六円と算定される。

(死亡時) 五〇才七ケ月余り

(推定余命) 二五・七年(平均余命表による)

(稼働可能年数) 一二年四ケ月

(収益) 本件事故当時、被告旭硝子の鶴見工場に清掃係員として勤務し、日給七五五円の実収入(手取り)を得ていたもので、一ケ月の労働日数を二五日として一ケ月一万八、八七五円

(控除すべき生活費) 一ケ月八、〇〇〇円

(毎月の純利益) 一万〇、八七五円

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

(2) 原告らは右訴外人の相続人の全部である。よつて、原告武男はその生存配偶者として、原告恵美子、同由利子は、いずれも子として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権を相続した。その額は、各原告においてそれぞれ三九万九、六〇五円である。

(三)  原告らの慰謝料

訴外藤枝は夫である原告武男の大工業による収入が不定であつたため、前記のように清掃係として勤務し、その収入によつて家計を援助するなど、精神的にも経済的にも、円満な家庭生活の中心であり、原告恵美子、同由利子の二人は未婚であり今後の母親としての活躍が大いに期待されていた。その訴外人の事故死による精神的損害を慰謝するためには、原告武男に対し一〇〇万円、原告恵美子、同由利子に対し各七〇万円が相当である。

(四)  弁護士費用

以上により、原告武男は一六一万六、三三八円、原告恵美子、同由利子はそれぞれ金一〇九万九、六〇五円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告武男は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し一〇万円を、支払つたほか二〇万円を支払うことを約した。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告武男は金一九一万六、三三八円、原告恵美子、同由利子は各金一〇九万九、六〇五円およびこれに対する請求拡張の日の翌日である昭和四二年八月一二日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告らの事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(三)は認める。(四)のうち、清掃中との点は否認する。(五)(六)は認める。

第二項中、(一)は認める。(二)について、被告旭硝子の運行供用者責任は否認する。(1)ないし(6)に記載された原告の理由は当らない。例えば、(6)記載事実その他に不実の事項があるし、右全部の理由を以てしても被告旭硝子が被告五菱産業を自己の企業の一部としていることにはならない。被告旭硝子と被告五菱産業との間には、製品の運送に関する請負契約の関係があるに過ぎず、被告車は被告旭硝子とは無関係である

又、被告車は専ら工場内のみに使用する特殊なものであるから自賠法の適用車ではない。

(三)は否認する。すなわち、被告旭硝子は訴外高野を使用しておらず、又訴外高野に過失はない。

第三項中(一)は、原告武男の現金支出額を争い、その余は認める。(二)の(1)は死亡時の年令と推定余命を認めその余は争う。訴外藤枝の日給は七五五円であり、日雇健康保険料、日雇失業保険料を控除し、手取は一日七三〇円であつたし、又、一月六日の手取は六一九円であつた。更に生活費はより多額である。(二)の(2)の相続の点を認め、額は争う。(三)は額を争う。(四)は不知。

二、(事故態様に関する主張)

被告五菱産業は、旭硝子鶴見工場内においてフオークリフト車を使用して硝子の箱を一定の道路を通つて運搬しているものであるが、常に運転手らに対して、最高速度一二粁以下を以て、通行道路も一定し、その左端を運行するよう指示しておつたし、その他事故発生を未然に防止する注意を怠らなかつた。訴外高野は、エンジンをかけたまま被告車を一旦現場に停車せしめて、便所に行き再び運転するに際しては、前方を見て人車の不在を確かめ、発進前に警笛を鳴らし時速五粁位で進行したものであつて、注意に欠けるところはなかつた。しかるに訴外藤枝が被告車の進路にいたのは、同人の重大な過失である。

三、(抗弁)

(一)  免責

右のとおりであつて、訴外高野には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者訴外藤枝の過失によるものである。また、被告五菱産業には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車には構造の缺陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告五菱産業は自賠法三条但書により免責される。

(二)  過失相殺

かりに然らずとするも事故発生については被害者訴外藤枝の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五、抗弁事実に対する原告らの認否

抗弁事実はいずれも否認する。

第六、証拠関係 〔略〕

理由

一、(事故の発生)

成立に争いのない甲第八ないし第一五号、乙第五ないし第一二号証および証人高野利夫の証言によれば、本件事故当時、訴外藤枝は清掃中であつたことが認められ、請求原因第一項のその余の事実は当事者間に争がない。

二、(責任原因)

本件事故当時、被告五菱産業が、被告車の運行供用者であつたことは当事者間に争いがない。

そこで、被告旭硝子の運行供用者責任について判断する。〔証拠略〕によれば、昭和四一年五月一日に被告旭硝子鶴見工場(甲と略称)と被告五菱産業(乙と略称)との間に「製品等の輸送に関する基本契約書」(乙第一号証)がとりかわされ、同契約書第一〇条には「………乙の使用する労務者についての使用者としての義務はすべて乙が負担する。」旨の条項があることが認められるが、右条項を含む右契約は甲乙間を律するものであるに止まり、第三者に対する不法行為責任について、その第三者に対して効力を有するものではない。又「証拠略〕によれば、同契約書の表題および第一条は、甲乙は対等の立場で運送契約を締結している外形をとつているが、第八条は甲からの契約内容の変更権、第一九条は甲の解約権を規定しているのみで乙の側にかかる権利は規定されておらず、第一二条第四号は「(乙は)自己の従業員又は下請負人その他運送のため使用する者に対し常に指導監督を行ない、甲の指示及び規則を遵守させること」と規定し、第一四条は、「乙は、甲の指示した方法に従つて運送を行なうものとする。………」と規定して、甲に指示権のあることが認められる。更に〔証拠略〕によれば、被告五菱産業は、被告旭硝子の鶴見工場の構内の硝子製品等の荷役運搬を専属的に行なつており、他社の仕事は行つていないこと、被告五菱産業は本件事故当時フオークリフトを二三台所有していたが、同被告の母体である小宮製作所、恵比須ふじ製凾の会社の依頼で鶴見工場外へ出したことがある他は、鶴見工場内でのみ運行していたこと、被告五菱産業の本社および営業所は設立時も事故当時も、被告旭硝子の旧研究所跡を借りていたことが認められる。

以上の諸事実によれば、被告五菱産業は、被告旭硝子に対し専属的下請の関係にあり、本社営業所は被告旭硝子の旧研究所跡にあり、フオークリフトの保管場所、活動場所も被告旭硝子鶴見工場の構内であり、被告五菱産業は被告旭硝子の一部門として包摂される関係にあるものと認められる。そして、本件事故当時、被告車は被告五菱産業の業務中であつたことは当事者間に争がない。

したがつて、被告旭硝子は被告五菱産業と並んで、被告車の運行を支配していたものであり、被告車を自己のために運行の用に供していたものと認められる。

なお、被告らは、被告車は専ら工場内のみに使用する特殊なものであるから自賠法の適用はないと主張するが、自賠法二条一項は、「この法律で『自動車』とは、道路運送車両法第二条第二項に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く)及び同条第三項に規定する原動機付自転車をいう。」と規定し、道路運送車両法二条二項は、「この法律で『自動車』とは、原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、次項に規定する原動機付自転車以外のものをいう。」と定義しているのであつて、農業耕作用の小型特殊自動車を自賠法の適用除外としている外は制限を付していないのであるから、工場内で使用する特殊なものであることを以て自賠法の適用がないとの見解は独自の見解であつて、当裁判所の採用するところではない。なお本件フオーク、リフト(ホーク・リフト)は、〔証拠略〕によれば高さが二・四米あることが認められ、道路運送車両法施行規則別表第一号の大型特殊自動車に属するものである。又自賠法一〇条の適用除外は、同条が「第五条及び第七条から前条までの規定は………適用しない。」と明示しているとおりであつて、自賠法三条の適用を除外するものではない。また、次項に詳述するように、訴外高野に過失が認められるので、免責の抗弁は理由がない。

以上の理由により、被告五菱産業と被告旭硝子とは共に、被告車の運行供用者としての責任がある。

三、(過失割合)

損害額の算定に先立ち、訴外藤枝と訴外高野の過失割合について判断する。

〔証拠略〕によれば、本件事故現場は被告旭硝子鶴見工場の構内でフロート工場東側を南北に通ずる幅員七・八米の通路と東方に伸びる幅員八・九米の通路が交叉する丁字路でコンクリート舗装であること、訴外高野は被告車を運転して北進中、丁字路の直前で用便のため停車し、再び発進するに際して、右丁字路の北東角附近即ち被告車の右前方約一二米附近の道路上に藤枝が立つていたのを認めながら、被告車の前部には製品積載のための特殊な設備があり、高さ約一・五米、幅約二米の木箱で梱包された板ガラスを積載されていたため運転席からの進路前方に対する見透しが著しく妨げられる状況であつたから、自動車運転者としては、前方左右特に前記藤枝の動静を注視し進路前方の安全を確認した上発進し以て事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにも拘らず、前記藤枝の動静を充分注視しないで進路右前方および前方安全を確認せず、工場騒音のため聴き取り難い状況の中で警音器を一回吹鳴しただけで漫然と発進した過失により、被告車前方を掃除のため右より左に横断歩行した藤枝に被告車を接触させた上同人を轢死させた過失があること、被害者藤枝は右鶴見工場の掃除婦であり本件事故現場はフオーク・リフトの通路であることを承知している筈であるにも拘らず、被告車の動静を充分注意することなく被告車の前方を横断した過失が認められる。右の如き被害者藤枝と運転者高野の過失割合は二対八と認められる。

四、(損害)

(一)  葬儀費

原告武男が葬儀関係費として訴外有限会社椎橋商店に対し一八万二、五五〇円の債務を負担したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、同原告は右一八万二、五五〇円の債務負担の他に葬祭関係費として二〇万円を超える現金支出をしたことが認められる。しかしながら、葬儀費用として相手方に請求し得る金額には社会通念上おのずから一定の限度があり、被害者の前記の如き社会的地位その他諸般の事情を考慮すると、原告武男が被告らに対して請求し得べき金額は金二〇万円を以て相当と認めるべきところ、被害者藤枝の前記過失を斟酌して金一八万二、五五〇円を以て相当と認める。ところで被告五菱産業が前記有限会社椎橋商店に原告武男に代つて一八万二、五五〇円を支払つたことは当事者間に争いがないので、葬儀費は全額弁済ずみということになる。なお、原告武男が被告五菱産業から香典として三万円を受領したことは当事者間に争いがないが、香典は儀礼的な贈与であつて損害賠償ではないので、損益相殺の対象とならない。

(二)  被害者に生じた損害

(1)  訴外藤枝の得べかりし利益

訴外藤枝が死亡当時五〇才七ケ月余りであつたことおよび推定平均余命が二五・七年であることは当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、藤枝は生前は健康であつたことが認められ、右事実と藤枝の職種とを考慮すると同人の稼働可能年数は一二年四ケ月を下らないものと認めるのが相当である。〔証拠略〕によれば、原告の日給は七五五円であつたことが認められる。被告らは、右金員より日雇健康保険料、失業保険料を控除すべき旨主張するが、右保険料は国庫負担分、使用者負担分と相まつて保険金と対価関係に立つものであり、右出捐は当該労働者の利益のためになされるのであるから、これを収入額から控除すべきではない。したがつて、同人の収入は一ケ月の労働日数を二五日として一ケ月一万八、八七五円となる。次に〔証拠略〕によれば原告武男は大工として稼働しておりその収入を補うために藤枝が掃除婦として稼働していたこと、武男、藤枝間には原告恵美子、同由利子の二人の子女があり、共に生活していたことが認められ、かかる家族構成および藤枝の収入額に照らし、藤枝の生活費は収入の五〇パーセントと認めるのが相当である。したがつて、同人の一ケ月の純収入は九、四三八円であり、一二年四ケ月すなわち一四八ケ月の逸失利益の総額から月毎のホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除すると、一〇八万六、二九〇円となる。

ところで、右藤枝には前記過失があるので、これを斟酌すると、被告らの賠償すべき藤枝の逸失利益は、九〇万円を以て相当と認める。

(2)  相続

原告らが右訴外藤枝の相続人の全てであり、原告武男は配偶者、原告恵美子、同由利子はいずれも子として、それぞれ相続分に応じて相続したことは当事者間に争いがない。したがつて、原告らの各相続分は、三〇万円である。

(三)  原告らの慰謝料

〔証拠略〕によれば、原告武男は大工として稼働していたが、生活費の補助に資すべくその妻である被害者藤枝が清掃婦として稼働していたこと、原告恵美子、同由利子は未婚であり母親藤枝は二人の子女のため又、夫のためになお活躍を期待されていたことが認められる。右の如き家庭の事情と前記の如き本件事故の態様殊に過失割合その他諸般の事情を考慮すると、原告らの精神的苦痛を慰藉するためには、原告武男に対し一〇〇万円、原告恵美子、同由利子に対し各七〇万円が相当である。

(四)  弁護士費用

以上により、原告武男は一三〇万円、原告恵美子、同由利子はそれぞれ一〇〇万円を被告らに対し請求し得るものであるところ、〔証拠略〕によれば、被告らは任意の弁済をしないので、原告武男は弁護士たる原告訴訟代理人に訴訟の提起とその追行を委任し、着手金として一〇万円を支払つた他、二〇万円を支払うことを約したことが認められ、本件訴訟の経緯および認容額等を考慮すると、右全額を被告らに賠償せしめるべき損害と認めるのが相当である。

五、(結論)

よつて、被告らは連帯して、原告武男に対して前項(二)ないし(四)の合計一六〇万円、原告恵美子、同由利子に対しそれぞれ前項(二)(三)の合計一〇〇万円および以上に対する請求拡張の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年八月一二日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告らの本訴請求は右の限度で認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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